別府史之選手のバイクフィッティング

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

今年2020年はとうとう東京オリンピックですね!まだ半年後のことなのに待ちきれません。

今回は昨年末、別府 史之選手のバイクフィッティングを行ったこと少し書きたいと思います。

別府史之選手といえば、2005年にディスカバリーチャンネルよりデビュー。プロ競技歴15年。しかもUCIワールドツアーチームに14年在籍したベテランですよね。
私はそのデビューした年の2年前に行われたカナダ・オンタリオ州ハミルトン市で開催されていた世界選手権ロードレースを観戦しに行っておりました。
彼がU23の選手として出場していたのを良く覚えています。当時面識がありませんでしたが、日本のメディアで高校時代より注目されていた彼にスタート前にスタンドより一声かけた記憶があります。レースでも大柄な日本人の若者が集団で堂々と戦っているなぁと感心していました。
兄の匠さん(現愛三工業レーシングチームマネージャー)とは仕事を通して少し面識がありましたので、彼の紹介でのちに面識を持つようになりました。

それから時は流れて、彼が初めてサンメリットBIKE FITスタジオに訪れたのは2013年の冬。
オリカ・グリーンエッジチームとの契約が終了し、次のチームトレックに入る前の事でした。オリカ時代は彼自身ヨーロッパのバイクフィッターがポジションを決めた、身体の可動域の限界以上にストレッチさせたポジションで苦しんでおり、成績を落とした時期でもありました。当時のパリ・ルーベなどの画像で検索すれば見れるかと思います。
当スタジオで身体チェックを行いましたが、彼の柔軟性以上を要求するバイクポジションだと感じました。
そのこともあり、彼は私にRadio Shack時代にアメリカ・RETULで受けたポジションというリクエストでフィッティングを行いました。いわゆるRETUL FITですね。マーカーさえ正確に出せば簡単に当時の感覚のポジションを出すことができるので、この時は彼のリクエスト通りのポジションを作り、彼はチームトレックのキャンプに戻っていきました。

さて今回です。
2019年の11月に別府選手電撃移籍のニュースが入りました。
フランスで新しく結成されたTeam Nippo DELKO ONE Provenceに移籍。そして渡仏する前にチームにバイクをオーダーしなければいけないということで、当スタジオでバイクフィッティングを受けました。
近年画像・映像で彼のバイクフォームで気になっていた事、トレックのチームキャンプでのフィッティングでそうなったのかを尋ねましたが、どうやらチームキャンプ後個人的な感覚で色々パーツ変更をしてしまったようです。チームトレックの専属のアメリカ人バイクフィッターを良く知っているので、そこは安心しました。。直近だとジャパンカップのクリテリウムとロードレースの彼のバイクポジションが多くネットに挙がっていますが、そのポジションは窮屈そのもので、首や肩回りの痛みに苦しんでいたようです。

フィッティングの様子:フィッティングバイク「KINEX」でフレームサイズをチェックし、3Dモーションキャプチャー機器を使用。

通常バイクフィッティングはライダーに問診して身体アセスメントを行い、バイクサイズ、パーツサイズ、サドル、シューズのフィッティングを行い乗りやすい状態にします。つまり身体とバイクの接点の感覚を向上させパフォーマンスアップを図る作業です。そしてエンジンカムであるペダリングも「真っ直ぐに踏むペダリング」に修正することで怪我防止も考えていきます。

当スタジオではRETUL社の3Dモーションキャプチャーを使用してデータ収集し、私の経験とBIKEFITの考え方を取り入れたバイクフィッティングを行います。
RETULはスペシャライズドの傘下となり日本で普及し、スポーツバイク販売店の強力なフィッティングツールとなりました。RETUL FITは良いのですが、ソフトウェアが示す最大公約数である推奨レンジ(範囲)は、私がインストラクターをしていた頃と比べ、BGフィットとの融合もあり店舗仕様にややシフトしました。
以前のアスリート用から一般ライダーを主点とした設定仕様に既定ポジションが年々変化しております。
当スタジオでのRETUL 3Dモーションキャプチャーを使用したフィッティングでは、この点を踏まえ、お客様の目的によってはレンジに縛られない臨機応変な評価をしております。しかし3Dモーションキャプチャーから得られるデータ(ポジション変更による動的な骨盤の縦の動き、ペダリングの縦の動き、スタンスや各関節の開閉データetc)は非常に有効な情報源であることには変わりません。

彼にも通常通り問診と身体アセスメントを行い、バイクサイズを選びながらフィッティングを行っていきました。

バイクサイズ:
フィッティングバイク「KINEX」で行い、彼が当初予定していたものより1サイズ大きいLOOK 795RSのLサイズのフレームを選びました。小さいサイズはポジションを出すのに、彼の場合はステム下のコラムスペーサーを多く積むととなり、プロレベルの選手にはそれが原因となるハンドルのたわみが出やすくなる為、使わせたくありません。ハンドルバーのたわみは、パワーロスとコーナーでのアンダーステアリングを起こしやすくなります。意図としたラインを描ける走りができるかどうかも含めて、フレーム選びは極限で戦う選手にとって大切なのです。彼の柔軟性などを考慮するとLサイズがベストでしょう。

パーツ:
・サドル:新チームで使用するブランドであるサンマルコのサドルからShort Fit Wideを選択しました。やや硬めの臀部による骨盤が立ち気味に着座するライダーにはラウンド形状が適していますし、骨盤の広さから幅の広いこのサドルは一番適しています。

別府選手の立位体前屈の評価 – 肩まわりと臀部に硬さがみられる。足首-ふくらはぎにやや硬さがみられるが、ウォーミングアップ前なのでこの状態ではまだ判断しない。 ©サンメリット

・ハンドルバー:私は今回彼にポジションからみる首や肩回りの不快感の発生原因を教え、ハンドルを持つフォーム作りから指導しました。彼は身体がやや硬いのでこれまで広いハンドルバーを好んで使用しているのですが、フォームの改善次第では少し幅の狭い物も使えることを動画撮影などで説明し、狭いハンドル幅も試しました。
現在は競技者については「空気抵抗」の軽減をテーマにポジション作りをしなければいけません。またトレンドでもあります。
また多くのプロチームが取り入れている空気抵抗を軽減するフォームづくりの方法を覚えて頂きました。これはこのブログでは書きませんが、トップチームが近年採用している方法です。これで今後走れるかは、彼のこれからのオフシーズンの取り組み次第なのですが、楽しみですね。

別府選手の足底の評価- 日本人に多い前足部の内反具合がほとんどなく、ペダリングの動きを妨げないことがわかります。これまで膝にトラブルが無かったのもこのおかげでしょう。©サンメリット

日本人に多い足底の評価。片足は前足部の内反(この場合は右足)、もう一方の足は足首から内反(この場合は左足)する状態。小指側と親指側との間に差を確認できます。この状態は膝のブレを招くペダリング、パワーロスを引き起こしやすく、結果として膝周辺の腱を痛める潜在的要因となりえるでしょう。BIKEFITクリートウェッジやITSウェッジなどで補正して解決する必要があります。©サンメリット

 

・シューズ:アッパーの硬さを整え、BIKEFITのテクニックでLOOK Keoのクリートを調整しました。足の反りがほとんど無い、サイクリストとして理想の足をもつ別府選手。右シューズには踵側にBIKEFITのITS-Hヒールウェッジを入れて、過度のアンクリングを減らす作業をしました。(画像ありません。。)
余談ですが、これに対して足の内反が確認される割合が多い日本人は足の内反角を減らす必要があります。特にO脚のライダーや通常のペダリングでもトップチューブに膝が触れてしまうようなサイクリストはBIKEFITのクリートウェッジを入れると膝故障の予防対策やパワーアップに効果があります。

BIKEFIT ITS-H ヒールウェッジ

BIKEFIT クリートウェッジ

後半はZWIFTを使用して実走感覚に近いところで走って感覚を確かめ微調整。最後は動画撮影とデジタルバイク寸法測定をして無事終了しました。

さて先日チームのプロマイド画像が公表されていましたが、LOOK 795RSのバイクサイズ及びハンドル回りはバイクフィッティングで出したデータ通りになっています。

画像:teamのfacebookサイトより

バイクサイズについても、後日彼から非常に良いとの連絡を受け安心しました。

さて、キャリア集大成となるかもしれない2020年、ツールドフランス出場のチャンスとオリンピック出場へのポイント獲得など多くの目標があります。
是非頑張ってほしいですね。応援しています!

 

サンメリットBIKE FITスタジオ
IBFI国際バイクフィッティング協会 Level4
伏見 真希門(ふしみ まきと)
https://bikefitting.jp

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です